- 歯科医師インタビュー -INTERVIEW
健康な歯と歯ぐきを守るために、
歯科医師からのメッセージを連載しています。
vol.10
【前編】
あなたの歯ぐきは大丈夫?
糖尿病と歯周病の知られざる関係
糖尿病と歯周病の知られざる関係
糖尿病と歯周病の知られざる関係
用賀ささき歯科 矯正歯科
院長佐々木 直樹
「最近、歯ぐきが腫れやすい」「朝起きたとき、口の中がネバつく」そんなサインを見逃していませんか? 実はこれ、単なる口のトラブルではなく、全身の健康に関わる重要な警告かもしれません。特に糖尿病との関係は、近年の研究でも注目されています。そこで今回は、用賀ささき歯科 矯正歯科院長、歯周病専門医の佐々木直樹先生に、歯周病と全身の健康を守るための秘訣を伺いました。
Q1. 歯周病と糖尿病の関連性が
注目されていますが、
日常生活で歯周病予防が
糖尿病の管理に
どのように役立つか、
どのようなメカニズムで
効果があるのか教えてください。
歯周ポケット内に細菌が入り込むことで炎症を起こすのが歯周炎です。その細菌が歯ぐきの血管に入り込み、広範囲の歯周組織にて炎症を引き起こします。炎症が起こると、糖尿病を悪化させる原因となるタンパク質(炎症性物質TNF-αやIL-6)が血中に放出され、血液循環に乗って全身に作用してしまいます。このTNF-αやIL-6などの炎症性物質が全身に増えると、インスリンの働きが悪くなる『インスリン抵抗性』を引き起こします。 インスリンは血糖値を下げるホルモンですが、その働きが弱くなると、血糖値が下がりにくくなり、結果として糖尿病が悪化しやすくなります。歯周病を予防・管理し、口腔内の細菌を減らすことで炎症を抑え、糖尿病のコントロールを助けます。
また、逆も然りで、糖尿病の症状や度合いが歯周病にも影響を及ぼします。実際に糖尿病の患者さんを診ていると、歯周病の改善に困難を伴うケースが多く見られ『歯みがきを頑張っているのに、なかなか治らないんです…』 という相談をよく受けます。これは血糖値のコントロールが歯ぐきの回復に影響するためです。だからこそ、口腔ケアと食事の見直しを含んだ疾患への対応をセットで考えることが大切です。治りが遅い方などは血糖値コントロールの状態をみて治療方針などを慎重に見極めなければなりません。糖尿病と歯周病は相互に作用しあうため、症状が重い場合は医科と歯科の両方からアプローチすることが大切です。
糖尿病以外にも、歯周病が影響を及ぼす病気として、心臓疾患や高血圧、リウマチなどが挙げられます。問診表などを活用し、患者さんの状態に応じた歯周病リスクを適切に説明するよう努めています。
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Q2. 日常的な口腔ケアにおいて、
特に歯周病予防に役立つ
習慣やポイントを
教えていただけますか?
歯周病は細菌の蓄積によって引き起こされるため、毎日の口腔ケアが予防の鍵です。朝昼晩の適切なブラッシングはとても大切です。それに加えフロスの使用や適切な道具の選択、さらに生活習慣の見直しを行うことで、歯周病のリスクを低下させられます。
ブラッシングの方法は強く当てすぎず歯に。対して歯ブラシを直角に当てて、横に小刻みに動かすように磨いてください。歯間の汚れを取るにはフロスや歯間ブラシが不可欠です。歯周炎が軽度で歯と歯の間の隙間が狭い時はフロス、歯周炎が進行し隙間が広い場合は歯間ブラシで清掃するというのが基本的な考え方です。しかし、歯間ブラシはサイズが合わないと歯ぐきを傷つけ、炎症を悪化させる可能性があるため、歯科医院で相談して選ぶことが大切です。フロスも歯間ブラシも歯間に通すだけでは歯が接している場所の汚れしか取れません。左右の歯に添わせるようにして丁寧に汚れを落としてください。
当院では、写真や動画を用いて患者さん自身に口腔内の汚れを確認していただきます。歯の裏や奥のほうなど普段は見ることができません。パソコンの大画面で自身の口腔内の状態を確認することで、患者さんのモチベーション維持につながると考えています。人によって汚れが溜まりやすい箇所が異なりますので、それぞれの汚れやすい箇所を知ることは大事だと思います。
生活習慣の観点では、喫煙は歯ぐきの血流を悪化させ、免疫機能を低下させるため、歯周病の進行を大幅に早めることがわかっています。さらに、喫煙は糖尿病のリスクも高める要因の一つと言われています。 ニコチンの影響で血管が収縮し、インスリンの働きが悪くなることで、血糖値のコントロールが難しくなると考えられています。実際に、喫煙者は非喫煙者に比べて糖尿病の発症リスクが高いという研究結果もあります。
そのため、禁煙は歯周病予防だけでなく、糖尿病の管理や発症リスクの軽減にもつながります。禁煙を強制することはできませんが、そのリスクを十分に理解していただくことが重要です。
Q3. 歯周病予防のために、
歯磨き粉やマウスウォッシュを
選ぶ際に
どのような成分を
重視すべきでしょうか?
歯周病予防ということなら、抗炎症作用のあるものを選ぶのがいいと思います。基本的には、正しいブラッシングを行えば、プラークを効果的に取り除くことができますが、好みの製品を取り入れることでブラッシングへの習慣化やモチベーションアップにつながるという面でおすすめします。細菌の繁殖を防ぐ成分を含む製品を取り入れるなどすると口腔内を清潔に保つ助けになります。異なる効果を持つ様々な製品が販売されていますので、ご自身のお口の状態にあった最適なものを選びましょう。
抗菌作用のある成分には、塩化セチルピリジニウム(CPC)、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、クロルヘキシジン(CHX)、エッセンシャルオイルなどの天然成分が含まれるものがあります。抗炎症作用のある成分としては、グリチルリチン酸やトラネキサム酸が代表的ですが、同様の効果を持つ天然成分を含む製品もあります。さらに歯の根元が露出している場合、弱った歯面が削れてしまわないように研磨剤が含まれない歯磨き粉や、知覚過敏を防ぐために、硝酸カリウムや乳酸アルミニウムが含まれる歯磨き粉もあります。補助的にケア製品を併用することで汚れの再付着を防ぐ効果もあるので、うまく取り入れるのが良いかと思います。
歯科医師紹介
用賀ささき歯科 矯正歯科 院長佐々木 直樹
- 一般歯科や小児歯科、根管治療、口腔外科、矯正、インプラント、歯髄保存療法と、歯の悩みに広く対応
- 東京医科歯科大学の大学院に進み、歯周病について研究と臨床をともに学び、日本歯周病学会歯周病専門医の資格も取得。
2013年 昭和大学歯学部卒業
2019年 東京医科歯科大学医歯学総合研究科大学院歯周病学分野修了
その他複数の歯科医院での勤務を経て
2024年7月に当院を開業